キミがいた物語



 暑い。 容赦なく照りつける陽の眩しさに、目を顰めながらもついつい、負けるかよと対抗して空に浮かぶ太陽を睨んでみるものの。3秒で諦めた。アホらしい。
 それでも時折吹く涼しい風が肌を撫でてくると。もう、この暑さにも終わりがくるのかと思え。今度は少しだけ夏が終わることが寂しくなってくるから不思議なものだ。
 半袖の上着でも悪くないが、ほんの少しだけ肌寒いと感じてしまう。そんな微妙な空気の日のこと。


 TheWorldのハセヲであり、リアルの三崎亮である俺はのんびりと休日を1人で過ごしていた。

  同年代の奴の大抵が、そろそろ夏休みの課題の期限を気にしだす時期だが。俺としてはそんなに焦るわけでもなく(既に課題は全て終えているので)暫らくネットゲームに時間を費やしすぎて鈍った体力を取り戻そうと、こうして外出して軽く散歩なんてやっている。
 本日のコースはあそこ・・・意識不明から目覚めた志乃と再会したあの時訪れた教会の前に、俺は来ていた。
 小奇麗な建物はまるで別世界の有様でしかなく、日本の中では異物と言っていい程、他の建物とは異なった雰囲気を感じさせる。
 そう。まるでここはグリーマ・レーヴ大聖堂だ。
 The World内においても異質な空間―― ロストグラウンドの一つでもある、あの聖堂がリアルに現れたような気になる。
 そんな筈があるわけないというのに。
 あの世界でリアルなのは、プレイヤーだけなのだと自分で言っていたくせに。
 暑さのせいなのか、疲れが溜まっているか。教会を見つめる自分の視界がぐにゃぐにゃと揺れている。まるで、架空の世界にノイズが起こったようにだ。

「はっ……バカらしい」

 直ぐTheWorldの事を考えてしまう自分が愚かしく思え、自分に悪態をつく。
 何時からこんなにも、あの世界が大切になっていた? 何時からこんなにも、こんなにも。胸の中は様々な感情で満たされていったんだろう。

 ああ、そんな事今更考えなくても答えなんてわかりきっている!

 全ては、オーヴァンと出会ってからだ。
 哀しみも、悔しさも、嬉しさ。憧れ。愛も、憎しみも、何もかもが……あの時奴と出会ってから始まった事だった。 彼の思惑に踊らされて、動いていた自分。 色んな事が起こりすぎて、まだ整理がつかないけれど。ひとつだけ確かな事がある。 ―― もう。オーヴァンは居ない。
 人ひとり居ない事が、世界が滅びるよりも辛いだなんて。初めて知った。
 認めたくなんてない。でも、自分の心に嘘はつけない。
 きっと、俺にとってオーヴァンは"特別"だった。誰よりも。なによりも。

 悲しみの物語は終わらずに、俺の胸で言霊を語り続ける。その度、俺の視界が歪んでいくのは、暑さでも疲労でもなく涙だと分っていても、認めたくはなくて。
 俺はただ、一人。抱え込んだまま歩いていくしかない。再び志乃と出会う時、強くいられるように。変われるように。今はただ、耐えるばかりだとしても。


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あとがき
漫画版GU+3巻設定での妄想。
ゲーム版にしろ、漫画版にしろ、ハセヲさんはED後オーヴァンの事でモヤモヤしてればいいよ。
(2007/02/10)08/03/12UP





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